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2026-08-20AI活用

長野の製造業がカーボンニュートラルに取り組む入口 ── AIとデータで排出量を見える化する

なぜ今、製造現場でカーボンニュートラルが問われるのか

「カーボンニュートラルは大企業や上場企業の話」——現場の経営者からそう聞くことは珍しくありません。しかし、取引の現場では状況が変わってきています。

自動車・電機・精密機械など、長野の製造業が取引先とする大手メーカーは、自社のサプライチェーン全体のCO2削減を、調達基準や取引条件に組み込み始めています。「御社のCO2排出量を教えてほしい」という問い合わせが来た、対応を求められた——こうした声が現場から届くようになっています。

答えられる体制を作るには、まず「測る」ことが必要です。「測っていない」「把握していない」ままでは答えられません。

CO2排出量の「3つの種類」を知ることから始める

スコープ1・2・3の排出量の構造

カーボンニュートラルへの取り組みで最初に整理すべきは、自社の排出量の「構造」です。国際的な基準(GHGプロトコル)では、排出量を3つのスコープに区分します。

スコープ1(自社からの直接排出) ボイラー・溶接炉・加熱炉などの燃料燃焼、社有車の燃料消費など、自社が直接燃やす燃料による排出。

スコープ2(エネルギーの間接排出) 購入した電気・熱の使用に伴う排出。工場で消費する電力がここに入ります。

スコープ3(バリューチェーン全体の排出) 自社の上流(原材料・部品の調達)から下流(製品の輸送・使用・廃棄)まで、間接的に関与する排出。範囲が広く計算が複雑なため、最初から取り組む必要はありません。

中小製造業の現実的な入口は、スコープ1とスコープ2から数字を出すことです。燃料の使用量と電力消費量のデータがあれば、計算は始められます。

「計算はできても、続けられない」を変える

排出量の計算自体は、以前からExcelでも可能でした。問題は「毎月続ける」「設備・工程ごとに把握する」段階で手間がかかることです。担当者が変わると計算が止まる、細かく見ようとすると工数がかかりすぎる——現場でよくある課題です。

AIとデジタルツールは、この「測り続ける・細かく見る」部分を仕組み化します。

自動集計・自動計算

電力会社の請求データや燃料の購入記録を取り込み、排出量を自動で計算します。環境省が毎年更新する排出係数への対応も自動処理されるため、更新漏れや計算ミスを防げます。

設備・工程別の見える化

スマートメーターや電力センサーを設備ごとに接続すると、どの設備がいつどれだけ電力を消費しているかが工程単位で把握できます。「削れる場所」が数字で見えるため、対策の優先順位が立てやすくなります。

生産データとの紐づけ

生産実績データと排出量データを連携させると、「製品1個あたり・受注1件あたりのCO2排出量」が算出できます。これは取引先への開示資料として使えます。

取り組みの進め方:3ステップ

カーボンニュートラルへの取り組みフロー

STEP 1 まず「数字にする」

燃料の使用量と電力消費量の記録を整理します。月次の請求書・伝票から集められます。これに環境省公表の排出係数をかけてCO2換算量を算出します。ツールがなくてもExcelで始められます。まず「自社の年間排出量」という数字を出すことが、すべての出発点です。

STEP 2 工程・設備別に「見える化する」

数字が出たら、次は「どこで発生しているか」を細かく把握します。加工機・コンプレッサー・空調・照明など、電力消費の大きな設備から計測対象に加えていきます。電力計測センサーは設置工事が不要な製品も多く、まず1〜2台から始めることができます。

STEP 3 削減策を立て、記録する

見える化されたデータをもとに、削減できる箇所を特定します。「稼働していない時間帯の待機電力を落とせる」「加工ロットをまとめると炉の稼働時間を短くできる」など、現場で判断できる改善からつないでいきます。記録が蓄積されると、取引先への報告書類として使えます。

公的な支援策も整理されてきている

カーボンニュートラルへの取り組みは、公的な支援策とも組み合わせられます。

経済産業省は、中小企業がカーボンニュートラルに取り組む際の施策をまとめたページを公開しています(中小企業のカーボンニュートラル支援策:METI/経済産業省)。CO2排出量の算定支援、設備投資に対する税制優遇制度などの案内が含まれます。

取り組みを始めるにあたっては、まず現状の排出量を把握することが先決です。数字が出てから支援施策の活用を検討する順序が、現場に合っています。

私たちの関わり方

私たちは、長野・諏訪・岡谷の製造現場の実態に合わせて、「どのデータを集めるか」「どのツールが規模と予算に合うか」を整理するところから関わります。

CO2排出量の算定は手段であり、目的は「取引先の問いに答えられる体制を作ること」と「現場のコスト改善につなげること」です。エネルギーコストの削減とカーボンニュートラルへの取り組みは、多くの場面で重なります。

効果が見込めない場面では、その旨をはっきり伝えます。