受注は積んでも、どこで稼いでいるか見えていない
工程が終われば日報を書き、材料を使えば発注書が残る。製造現場には記録が積み上がっています。しかし月末に集計してみると、どの受注が利益を出したのかが分かりません。
現場で感じるのは「忙しかった割に数字が伸びていない」という感覚です。受注量は増えているのに利益率が下がっている──しかし原因を追うと、担当者の感触か月次報告書しか手がかりがない。
工数管理と原価管理が別々に動いている現場では、この状態が続きます。日報の工数データと材料費のデータは存在しているのに、受注番号でひも付いていないため、受注ごとの実コストが計算できません。
「工数」と「原価」がバラバラになっている構造的な理由
工数データは現場で生まれます。誰がどの製品を何時間担当したか。日報・作業記録・タイムカードに記録され、製造部門が管理しています。
材料費のデータは経理・調達で生まれます。何を何個いくらで仕入れたか。発注書・仕入伝票・請求書に記録され、経理・購買部門が管理しています。
この2種類のデータが別々のシステムや帳票で管理されているため、「受注Aにかかった工数コストと材料費の合計」を出そうとすると、手作業の突合が必要です。月に1度、担当者が数時間かけて集計する現場も少なくありません。
しかもその集計は「品種全体の平均」にとどまり、特定の受注単位では出せていない──というのが典型的な状況です。受注ごとの採算が感覚頼みになると、次の見積判断の根拠も曖昧なままです。
AIでつなぐと何が変わるか
AIが担うのは、2つのデータを受注番号でひも付けて集計する作業です。工数データと材料費データが同じ受注番号や製品コードを持っていれば、AIはこれを統合して受注単位の実コストを計算します。
結果として見えてくるのは主に3つです。
受注ごとの実コスト:工数×人件費単価+材料費の合計を、受注単位で算出します。月次集計の代わりに、受注が完了するたびに実コストを確認できます。
見積原価との差異:見積段階で計算していた原価と実績の差を、受注ごとに比較できます。「この品種はいつも採算が合っていない」「この工程で工数が膨らんでいる」という傾向が数字で見えます。
品種・工程別の傾向:同じ品種を複数回受注したとき、実コストが安定しているか変動しているかが分かります。工程ごとに工数が増えている時期を特定することもできます。
長野・岡谷の多品種少量の製造現場では、受注ごとに品種・材料・工程が異なります。だからこそ、受注単位の実コストが分かることが、次の見積精度と利益確保に直結します。
実践の手順
STEP 1 データのひも付き可能性を確認する
最初に確認するのは「工数データと材料費データが、受注番号や製品コードで対応づけられるか」です。
日報に受注番号が記載されているか、材料の仕入伝票に使用先の受注番号が書かれているか──この点が確認できれば、データのひも付けが可能です。
紙の記録の場合、全件デジタル化する必要はありません。AIで処理するために必要なのは「日付・受注番号・工数(時間)」と「日付・受注番号・材料名・数量・単価」の対応関係だけです。特定の品種群・直近3か月など範囲を絞って始めます。
STEP 2 AI集計で受注単位の実コストを算出する
データが整ったら、AIに受注番号単位での集計を行わせます。工数×時間単価を受注ごとに合算し、材料費を加えると受注単位の実原価が出ます。
ExcelのPIVOTやPythonでも可能です。生成AIに集計ロジックを書かせる方法も有効で、大量の受注データを一括処理する点がAIの強みです。手作業で数時間かかっていた集計が、AIなら数分で完了します。
STEP 3 見積原価と実績を比較して改善点を探る
出た実コストを、見積段階で計算した原価と並べます。差が大きい受注・品種・工程を特定します。
差の原因は現場の知識で確認します。「この時期に材料価格が上がっていた」「担当者が交代したタイミングで工数が増えた」──AIが示す傾向を起点に、現場で原因を確認します。確定した原因に対して、仕入先交渉・工程改善・作業標準の見直しといった具体的な対策を検討できます。
AIが担う部分、人が判断する部分
AIは「2種類のデータを統合して、受注単位の実コストを素早く算出する」ことを担います。手作業では数時間かかる集計をAIが短時間で処理し、品種・工程・期間をまたいだ傾向も自動で集約します。
「なぜそのコストが増えたか」の判断は人が行います。材料価格の変動、工程の属人的な差、設備コンディションの影響──これらはデータだけでは分からず、現場知識が不可欠です。
見積の精度を上げるにも、次の受注判断の根拠を積み上げるにも、この実コストの蓄積が起点になります。AIが計算を担い、人が意思決定する分業が、原価管理の精度を実務の中で高めていきます。
まず「データのひも付き」を確認することから
私たちが最初に行うのは、現場にある工数データと材料費データがどう管理されているかの確認です。受注番号でひも付けられる状態かどうか、そうでない場合に何が必要かを整理します。
工数管理と原価管理をAIでつなぐ取り組みは、システム刷新なしに既存データから始められるケースが多くあります。効果が見込めない──データの品質や量が分析に不十分な──場合は、その旨をはっきりお伝えします。現場の状況に合わせて、どのステップから手をつけるかを一緒に考えます。