エネルギーコストが「利益を圧迫する」問題になっている
電気代・ガス代の上昇が続いています。製造業では、エネルギーコストが製造原価に直接影響するため、価格転嫁が難しい取引では利益率を削り続けます。
「節電はしている」「こまめに電源は切っている」──個別の対策はしているが、どこでどれだけエネルギーを使っているかは把握しきれていない。こうした状況が、多くの中小製造業の現場にあります。
AIを使ったエネルギー管理は、この「把握できていない」という状態から始まります。まず見えるようにし、見えたものを削る──この順序が基本です。
AIが工場の省エネに貢献する3つの入口
1. 消費電力の「見える化」
最初のステップは、電力計測センサーを取り付けて、設備ごと・時間帯ごとのエネルギー消費量をデータにすることです。
「工場全体の電気代は毎月の請求書で分かる」──しかし、どの設備が何時間どれだけ使っているかは見えていません。計測器を入れると、「稼働していないのに電力を消費している設備がある」「夜間・休日の待機電力が思ったより大きい」といった実態が数字で見えてきます。
見える化は、それ自体が省エネの起点です。数字が見えると対処できます。
2. ピーク電力(デマンド)の自動制御
電気代の仕組みを知っておくと、改善効果が大きい場所が見えます。
電気代には「使った電力量(kWh)に比例する料金」と「ピーク電力(kW)に連動する基本料金(デマンド料金)」の2種類があります。デマンド料金は、年間の最大ピーク電力で1年間の基本料金が決まります。この仕組みのため、ある時間帯にピークを抑えると、年間を通じて基本料金を下げ続けることができます。
AIを使ったデマンド制御は、電力消費量のリアルタイムデータを監視し、ピークに近づいたタイミングで優先度の低い設備への通電を一時的に落とします。空調・照明・一部の補助設備が対象になることが多いです。加工設備の稼働に影響を出さずに、電力のピークを平準化します。
3. 無駄な稼働の自動検知
「昼休みに機械が回ったまま」「夜間、誰もいないのにコンプレッサーが動いている」──現場ではこうした無駄が生じます。人が逐一確認しなければ見落とします。
センサーとAIを組み合わせると、「この時間帯にこの設備が動いているのは異常」というパターンを学習し、アラートで知らせます。無駄な稼働を仕組みとして防ぐことで、意識せずとも省エネが継続します。
「デマンド」という見えにくいコスト
省エネに取り組む現場で見落とされやすいのが、デマンド料金です。
月の電気使用量が前月と変わらなくても、ある30分だけ電力使用量が大きく増えれば、その月の基本料金は上がります。さらに、それが年間最大値であれば、翌年の基本料金にも影響します。
設備を一斉に立ち上げる朝の時間帯、検査工程や溶接工程が重なるタイミング──こうしたピーク発生の「パターン」はデータを見ると特定できます。スケジュールを少しずらすだけでピークを下げられる場合もあります。AIはこの分析を自動で行い、スケジュール調整の提案まで担えます。
従来のエネルギー管理と何が変わるか
エネルギー管理にAIを使う前と後では、管理の「密度」が変わります。
従来の管理は、月次の電気使用量と請求書を確認し、気になったことがあれば対策を検討する、という流れが一般的です。リアルタイムで何が起きているかは分からず、対策は後手に回ります。
AI活用後は、設備単位・時間帯単位のデータが常時蓄積されます。「今月のピーク電力は何日の何時に発生したか」「どの設備が一番エネルギーを使っているか」が明確になり、対策の優先順位が立てやすくなります。
始め方:3ステップで進める
STEP 1 計測箇所を決めて数字を取る
「電力消費が多そうな設備」または「稼働スケジュールが不規則な設備」から1〜3台を選んで、まず計測します。
電力計測センサーの価格は以前より下がっており、工事不要で取り付けられる製品もあります。取得したデータは、専用のソフトウェアやクラウドサービスで可視化できます。長野・諏訪・岡谷の製造現場では、加工機の主軸モーターやコンプレッサーが最初の計測対象になることが多いです。
STEP 2 「見えたもの」に一つ手を打つ
データが見えたら、目立った無駄が1か所は見つかります。「休日の待機電力が大きい」「特定の時間帯だけ消費量が突出している」──それに一つ手を打ちます。
この段階では制御の自動化は必要ありません。「見えたから対処できた」というサイクルを作ることが先です。
STEP 3 制御・自動化へ進む
見える化で得たデータと現場の実態が合ってきたら、デマンド制御や無駄稼働アラートの自動化を検討します。
AIを使った制御は、「どの設備をどの順序で制御するか」のルール設定が重要です。生産への影響が出ないよう、現場の実態を知っている担当者がルールを決める必要があります。
省エネの効果は長く続く
エネルギーコストの削減は、コスト改善であると同時に、カーボンニュートラルへの取り組みとしても評価されます。取引先から環境配慮の取り組みを求められるケースが増えており、エネルギー管理の「記録」は、今後の経営資料としても価値を持ちます。
資源エネルギー庁は2026年3月に「デジタル・AI技術による省エネ・生産性向上に向けた手引き」を公表しており、AIを活用したエネルギー管理を中小企業でも取り組みやすい形で整理しています(出典:資源エネルギー庁|デジタル・AI技術による省エネ・生産性向上に向けた手引き)。
私たちの関わり方
私たちは、どの設備でどのデータを取るか、どの仕組みが現場の規模と予算に合うかを、長野・諏訪・岡谷の製造現場の実態に合わせて整理します。「まず何を計測するか」という段階から一緒に考えます。効果が見込めない場面は、その旨をはっきり伝えます。